神経伝導検査について備忘録的にまとめます。久しぶりにこの本を出してきて勉強しました。
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<運動神経伝導検査>
運動神経伝導検査では神経の走行に沿って数箇所で電気刺激を加え、誘発された複合筋活動電位(Compound Muscle Action Potential:CMAPまたはM波)の振幅(Amplitude)と潜時(Latency)を測定する。

刺激より誘発筋電位の起始までの潜時は以下の3成分からなる。
① 刺激部位より神経末端までの伝導時間
② 興奮が神経筋接合部で筋終板に伝達される時間
③ 終板の脱分極に続いて筋細胞膜で活動電位が誘発される 

したがって単純に刺激点から記録電極までの距離を潜時で割っても神経伝導速度を求めることはできない。よって神経伝導速度は神経に沿った2点で刺激を加え、潜時差で2点間の距離を割って計算される。

正常値
・尺骨神経:Amplitude 5mV、伝導速度 50-60m/s、
・正中神経:Amplitude 7mV、伝導速度 50-60m/s
・橈骨神経:AMplitude 10mV、伝導速度 60m/s
・脛骨神経:Amplitude 6mV、伝導速度50m/s

<感覚神経伝導検査>
感覚神経伝導検査では遠位部の指神経に刺激を加えて感覚神経活動電位(Sensory nerve action potential:SNAP)を近位部から導出する順向性記録法と神経幹に近位部で刺激を与え指神経の電位を導出する逆行性記録法がある。

感覚神経の潜時は神経伝導時間そのものなので、1箇所の刺激で伝導速度の計算ができる。

正常値
・正中神経 amplitude 40uV、伝導速度60m/s
・橈骨神経 amplitude 4-10 伝導速度 60m/s

<F波について>
F波とは運動神経伝導検査でCMAPを測定する際に強い刺激を加えると、M波に続いて一定の潜時をおいて計測される小さい電位のことを言う。F波は運動神経繊維が刺激され、その部位から逆行性インパルスにより脊髄前角運動ニューロンの再発火を起こし、順向性インパルスを生じた結果起こる。

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F波では伝導速度、潜時、出現率をcheckする。したがって末梢神経とくに脱髄を起こす疾患(GBS、CIDP、CMT、DM)などで高率に潜時の遅延、F波伝導速度の低下、出現頻度の低下を示す。神経叢や神経根障害では障害が広範囲で無い限り異常が出ることは少ない。通常末梢神経は複数の神経根で支配されているからである。

<軸索および髄鞘の障害>
軸索障害では複合活動電位の振幅が低下し、脱髄では神経伝導の遅延と限局性ブロック(Conduction blcok)が特徴的

軸索障害も軽度なものでは細い線維が傷害され、複合電位の振幅は正常にとどまり神経伝導速度にも異常はない。太い線維まで傷害されると複合電位の振幅は低下しそれに応じて伝導速度も変化するが正常値下限の70-80%以下になることはない。アルコール、尿毒症、PN、ポルフィリン症、DM、悪性腫瘍など鑑別は多い。

節性脱髄では伝導速度の減少が著しく、正常下限の60-70%に低下する事が多い。局所的な脱髄疾患では神経伝導が障害部位でのみ遅延するが、それより末梢部位では伝導異常を認めない。脱髄疾患ではGBS、CIDP、多巣性運動ニューロパチー、POEMS、CMTなどがある。神経束内の脱髄が細い線維に起こると、個々の神経線維伝導速度が大きくばらつくため、時間的分散が増大し活動電位の持続が延長する。

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障害で出る神経伝導検査のパターンとしては
① 振幅が低下し、潜時が正常かわずかに遅延する:軸索障害

② 振幅が低下し、潜時が遅延し波形が変化する:脱髄障害。GBSなどでは広範囲の脱髄により、伝導ブロックで時間的分散が異常に増大し、電位の波形にかなり歪みが見られる、

③ 振幅が正常で、潜時が遅延している:節性脱髄

④ 電位が全く誘発できない:高度の軸索変性もしくは刺激部位より下部での完全な伝導ブロック

Polyneuropathyの場合、脱髄パターンだと鑑別は絞られます。AIDP、CIDP、多巣性運動ニューロパチー、CMT、IgM M蛋白血症、POEMS、ジフテリアなど。