18歳女性が3年前からの両手の色調と温度変化、そして時折手が震えることで受診した。同時に右手が勝手に動いてしまうこともあり、集中力も下がっているとのことだった。診察上、右手のジストニアと手足の姿勢時振戦、軽度の構音障害、嚥下障害、運動緩徐を認めた。採血では肝酵素とγ-GTPの上昇を認めた。

眼の所見は以下の通り。
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https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmicm1101534

診断は? 





















「Wilson病」

・セルロプラスミン 0.02g/L(正常値 0.2-0.5)、銅 4.1umol/L(正常値 11-22)と低値であり、24時間尿中銅排泄量は12.8umol/L(正常値 0-1)と上昇していた。眼の所見はWilson病に伴うKayser–Fleischer Ringsであった。ATP7B遺伝子の遺伝子変異を認め、WIlson病と診断した。銅キレート剤の治療で神経症状は改善し、Kayser–Fleischer Ringsも消失した。
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・WIlson病はATP7B遺伝子の変異により、肝細胞での銅の胆汁中への排泄が阻害される常染色体劣性遺伝疾患(浸透率はほぼ100%)である。 その結果、肝臓に銅が沈着し肝硬変に至る(10-20代)。肝臓の貯留限界量を超えると(20-30代)血中に流れ出し、神経/精神症状(振戦、Parkinsonism、抑うつ)やKayser–Fleischer Rings(角膜のデスメ膜への沈着)を来す。
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https://academic.oup.com/qjmed/article/112/8/629/5299788

・急性肝不全のプレゼンテーションを取ることもある。その場合、Coombs-negativeの溶血性貧血と腎障害を伴う。溶血を伴うためBilがかなり高いのが特徴。

・遺伝子変異により銅胆汁排泄、ゴルジNetworkへの輸送に必要なセルロプラスミンの折りたたみができず、半減期が短くなり血中セルロプラスミンの定値を示す。セルロプラスミン低値はWIlson病保因者だけでも見られるため注意。

・肝障害に加えて、若年発症の神経/精神症状の家族歴、進行性肝障害の家族歴、神経/精神障害の既往、UA定値、Fanconi症候群などを認める場合にWIlson病を疑う。 つまり家族歴の聴取が大事。また自己免疫性肝炎と診断され、治療に反応が悪いときはWilson病の可能性を考える。 

・MRIではT2で基底核(レンズ核、尾状核など)や橋、視床、中脳、に高信号を認める事が多い。 
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https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0967586818302108