48歳女性が全身性強直間代性痙攣の後の意識障害で救急外来に搬送された。頭部CTでは占拠性病変や出血はなかった。内服薬はなく、既往はGERDのみであった。40 pack-yearの喫煙歴があり、飲酒は少量であった。前年より彼女は進行する錯乱、不安定性などで神経内科を受診していた。転倒も増え、押し車を使うようになった。神経内科では運動緩慢、仮面様顔貌、左手の振戦、固縮などからパーキンソン病と診断され、ドーパアゴニストやレボドパなど試されたが効果はなかった。

意識は徐々に改善したが、混迷は続き見当識障害が認められた。採血での異常はTSHが14mIU/L(正常 0.5-5.0)のみであり甲状腺ホルモンは正常値であった。髄液検査ではタンパクがやや上昇しているのみであった。
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21324872

診断は?





















「橋本脳症」

橋本脳症が疑われ、甲状腺自己抗体を提出の上でプレドニン100mg/dayが開始された。彼女の混迷は24時間以内に改善した。抗Tg抗体 24300IU/L(正常値<40)、抗TPO抗体 3056IU/L(正常値<40)と高値であった。数ヶ月はプレドニン50mgが継続され、不安定性と認知機能は徐々に改善し、仕事に復帰した。抗Tg抗体 5400IU/L、抗TPO抗体 440IU/mlと低下した。プレドニンは4-6週おきに10mgずつ減量されたが、再度症状は増悪し、抗体価は上昇していた。プレドニンは50mgに増量されアザチオプリンが追加された。

・橋本脳症は自己免疫性甲状腺炎に合併しステロイドに反応する脳症である。急性、亜急性、慢性、再発寛解性と色んな発症様式を取り、「認知症、混迷、幻覚、眠気などの全般性の緩徐進行性認知機能障害」「再発性の脳卒中likeの局所神経脱落症状」などのパターンを取る。痙攣や全般性の反射亢進、錐体路障害、psychosis、ミオクローヌスなども取る。抗Tg抗体や抗TPO抗体などの甲状腺自己抗体が陽性になる。抗NAE抗体(感度50%、特異度91%)が血清中に特異的に存在する。血管炎や免疫複合体の沈着が脳微小血管を傷害すると考えられている。MRIは正常の事が多い。治療はPSL 50-150mgで2年ほどでtaperする。免疫抑制剤はアザチオプリンやシクロフォスファミドが使用される。

85名の橋本脳症(69名が女性、平均年齢44歳:9-78歳)のreviewでは、27%がStroke-likeで66%が痙攣、38%がPsychosisを起こした。60%で再発寛解を、98%で脳波異常を認めた。96%でプレドニンで改善した。甲状腺機能は下図のように様々だが、潜在性甲状腺低下が35%と最も多い。

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12580699

というわけで脳症や心因性を疑い、甲状腺自己抗体が陽性でかつ女性であれば可能性は高まりステロイドを試す価値があるという感じでしょうか。