62歳男性が黄疸そう痒感で外来を受診した。彼は約4週間前に感冒症状に対してアジスロマイシンを内服しており、3日後にStevens-Johnson syndromeを発症した。入院しメチルプレドニゾロン、パントプラゾールなどで治療され2週間ほどで退院した。退院後2週間で上記の黄疸などを発症した。

採血ではAST 1545、ALT 1130、γ-GTP 1860、ALP 545、t-Bil 15.1mg/dLであった。各種検査で胆管閉塞やウイルス性肝炎、自己免疫的機序は否定的だった。肝生検が施行され、所見は以下の通り。
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19906050/

診断は?





















「Vanishing Bile Duct Syndrome」

・肝生検では小葉間静脈の周囲にあるはずの胆管が減少しており、Vanishing Bile Duct Syndromeと診断した。ウルソやメチルプレドニゾロンなどで治療したが改善せず、肝移植となった。摘出された肝臓の病理もVanishing Bile Duct Syndromeに一致した。原因としてアジスロマイシンが考えられた。
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Vanishing Bile Duct Syndromeは小葉間胆管もしくは近位隔壁胆管が変性、壊死し慢性の胆汁うっ滞を来す疾患である。胆管消失とは病理組織所見で門脈域における50%以上の小葉間胆管の欠如を認める場 合と定義される。通常の肝生検像は以下の通り。VBDSの多くの症例は、重度の胆汁性肝炎の発症から数ヶ月以内に発症し、発疹、発熱、顔面浮腫、リンパ節腫脹、好酸球増多などの免疫アレルギーを伴うことが多い。本例のようにSjSやTENを伴うこともある
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http://www.med.teikyo-u.ac.jp/~kaibo/soshiki/digestive_system/25.html

・原因となる薬剤には以下のようなものがある。抗菌薬で胆汁うっ滞の副作用の報告が多いのがエリスロマイシンとアモキシシリン-クラブラン酸。今回のアジスロマイシンは肝臓で半減期が長く、血中に比べて25-200倍と言われる。薬剤以外の鑑別は肝移植後の拒絶反応、自己免疫性(PSC, PBCなど)、リンパ腫などがある。機序は薬剤が直接胆管に毒性を持つもしくは免疫的なものが考えられている。
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というわけで薬剤を中止してもBilが下がってこない場合はVanishing Bile Duct Syndromeを念頭に肝生検を考慮しましょう。