56歳男性が2週間前からの左上眼瞼下垂で外来を受診した。3週間前患者は左顔面の激しい痛みを感じた。複視、視力低下、外傷は認めなかった。診察上、他の脳神経障害や無汗症やは認めなかったが、瞳孔不同(右5mm、左4mm)を認めた。
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https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/fullarticle/2768201

診断は?





















「頚動脈解離からのHorner症候群」

・顔面痛を伴う片側眼瞼下垂、瞳孔不同より軽動脈解離からのHorner症候群が疑われた。頭頸部のMRAが施行され、左の内頸動脈の上部に12mmの解離が見つかった。抗凝固療法と降圧療法で治療された。
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Horner症候群は眼球交感神経の障害で起こる。上眼瞼の1-2mmの下垂/下眼瞼の挙上(Muller筋麻痺)、障害側の縮瞳、眉毛の上や顔面の無汗症(頻度は下がる)を三徴候とする。実は下眼瞼もわすかに上がっているためupside-down ptosisとも呼ばれる。動眼神経は上眼瞼挙筋を支配しており、麻痺では強く眼瞼下垂がでる。

・上頸部神経節より近位側の病変は片側の発汗障害を起こす。急性期には交感神経の変性による血管運動の制御が失われることで、顔面の潮紅、結膜充血、涙、鼻汁、さらには鼻腔内の血管拡張を引き起こすことがある(下の写真は右のHorner症候群)。その後、正常に循環しているアドレナリン成分に対して血管系が過敏になることで血管収縮が起こり、正常側よりも皮膚の色が薄くなることがある。
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これは汗をかかないほうが患側というやつですね。


瞳孔左右差は暗い場所で見ないと見逃すことがある。これは明るい光の下では副交感神経の緊張が最大になり交感神経の緊張が最小になるため、瞳孔の大きさの差が目立たなくなるためである。瞳孔括約筋は副交感神経支配で瞳孔を小さくし、交感神経は放線状線維を刺激し瞳孔を大きくさせる。下の写真は右のHorner症候群の患者である。覚えておく必要があるのはHorner症候群でも暗い場所では瞳孔括約筋が弛緩するため少し散瞳することである。しかし交感神経による散瞳よりゆっくり起こる。これを" dilation lag "という。

そのため光を当てた状態では瞳孔不同はわかりにくく→光を当てるのを止めると瞳孔不同は最大となり(5秒後)→その後またわかりにくくなる(15秒後). つまり一番わかり易いのは明るい状態から暗い状態にした直後である
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・頭頸部の交感神経は主に3つのパートに分かれ、それぞれで原因が異なる。
① 視床下部- 頸髄(C8-T2):脳梗塞(Wallenberg症候群)、脱髄性疾患、悪性疾患
② 頸髄-上頸部神経節:胸郭出口症候群、縦隔、肺尖部、頸部病変
③ 内頚動脈-頭蓋内-海綿静脈洞-眼窩:内頚動脈病変(解離、外傷)、頭蓋底部の外傷、海綿静脈洞病変
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https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acschemneuro.7b00405