片頭痛の既往のある55歳女性が5日前からの頭痛の増強を主訴に来院した。頭痛は左こめかみに最強点を持ち、頭全体がズキズキと痛む性状であった。立ち上がっても横になっても、運動でも増強した。頭痛は前日より程度を増し、伴う嘔気などで夜中に起きてしまうほどだった。いつもの片頭痛と違い、鎮痛薬で改善しないため受診した。BMIは46と高度肥満を認めた。熱はなく、視野異常は認めなかった。神経診察でも異常を認めなかった。

MRIが撮影され、脳室の狭小化と脳溝の消失(A)、左蝶形骨洞に液貯留とEmpty sella (B)、横静脈洞の狭窄(血栓なし)を認めた。
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https://n.neurology.org/content/92/22/e2614

診断は?





















「特発性頭蓋内圧亢進症」

・診察中に患者は左鼻孔より透明な鼻汁が出てくるようになり、髄液漏が疑われた。Reservoir test(頭を下ろすと透明鼻汁が漏れてくる)は陽性であった。髄液検査を行うと初圧38cmH2O、単核球優位の髄液細胞増加が見られた。特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension:IIH)にCSF leak+髄膜炎を合併したと考えられた。アセタゾラミドと広域抗菌薬で治療され症状は軽度改善した。脳槽造影を行い、左蝶形骨洞洞後壁に局所的な裂開を認め髄液漏が診断された。裂開修復と脳室シャントで症状は大幅に改善した。

・IIHは「20-30代の肥満女性に多い頭痛、拍動性耳鳴、視力障害、乳頭浮腫などを起こす疾患」である。過去にはpseudotumour cerebriと言われていた。頭痛の性状は片頭痛に似ており(片側性、ズキズキとした性状、嘔気、光音過敏)、誤診される場合がある。視力障害は片側性または両側性に姿勢刺激に伴って起こる短時間(60秒未満)起こる。頭蓋内圧(ICP)が25mmH2O以上で、特にICPを上昇させる疾患や髄液検査異常が他にない時に診断される。両側横静脈洞狭窄はIIHの90%以上に見られる所見であり、拍動性耳鳴の原因とも言われる。重要な鑑別は静脈洞血栓症であり除外が必要である。
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26700907/

・肥満は程度が高度なものが多く、下記でもBMIが26や30以上などと定義されている。本症例のようにICP上昇からの頭蓋底侵食によりCSF leakの原因になることもある。
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・機序は脳脊髄液の過剰産生、脳脊髄液の流出路閉塞、静脈洞圧の上昇などが言われているがはっきりとわかっていない。
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・MRIではempty sella、視神経鞘の膨張、横静脈洞狭窄、眼球背側の平定化などが見られる。
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・治療は減量、アセタゾラミド、減塩などである。脳室シャントなども考慮される。

拍動性耳鳴の勉強をしていて、思い出した疾患です。横静脈洞の狭窄で起こるんですね。高度肥満がそれほどいない日本ではどれくらいいるのでしょうか・・?北海道のデータはありましたが、1年で2人というものでした。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10929282/