Wernicke脳症の三徴は眼球症状(眼筋麻痺、両側性水平眼振など)、意識障害、小脳症状(失調)ですが意識障害があると眼球症状や小脳症状は指示が入らずcheckできない場合があります。なので、Wernicke脳症のリスクのある患者の意識障害ではとりあえずビタミンB1を測定して補充すればいいのですが、そんな時に前庭動眼反射が使えるかもしれません。

前庭動眼反射とは「頭の位置を動かしたときに反対方向に眼球を動かすことで視野のぶれを防ぐ反射」です。いわゆる人形の目現象です。昔の人形の目って体を動かしても同じ方向向き続けましたよね。頭の動きは前庭器で感知され、その情報は前庭神経核と前庭小脳に伝えられます。前庭神経核の神経細胞は外眼筋の運動神経核群に出力を送り、頭の動きを補正するような眼球運動が誘発されます。

意識障害の患者さんの時に、瞼を開けて他動的に頭囲を動かしても眼の位置がずれなければ前庭動眼反射は保たれています。脳幹機能に異常があるときなどに前庭動眼反射は障害されます。
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そしてWernicke脳症の場合は両側の前庭機能が障害されやすく、水平性の前庭動眼反射は障害され、垂直性は保たれやすいのが特徴とされます。

5名の脳症のないWernicke脳症の患者で全員水平性の前庭動眼反射が障害され、3名に垂直性がテストされましたが2名で保たれていた報告があります(Kattah JC, Dhanani SS, Pula JH, Mantokoudis G, Tehrani ASS, Toker DEN. Vestibular signs of thiamine deficiency during the early phase of suspected Wernicke encephalopathy. Neurol Clin Pract. 2013 Dec;3(6):460-468.より)。これは脳幹の前庭神経核の障害の影響とされています。

同様に前庭機能を診るカロリックテストで異常を認める報告もあります(Ghez C. Vestibular paresis: a clinical feature of Wernicke's disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1969 Apr;32(2):134-9.より)。

Wernicke脳症は慢性経過が多いですが、急性経過で来た場合前庭神経炎や脳梗塞と間違えられる場合もありそうですね。ということでWernicke脳症を疑ったら前庭動眼反射も見てみましょう。ちなみにWernicke脳症のリスクはアルコール、栄養不良、慢性下痢、繰り返す嘔吐、上部消化管術後(ビタミンB1は十二指腸で吸収される)、偏った食事、利尿薬などです。